金刀比羅宮所蔵作品の網羅的把握と言う所期の目的に従い、本年度も未調査作品の発見に努めた。金刀比羅宮社務所の協力の下、8点の未調査作品を発見することができた。これら8点のうちには、作行の優れた奈良絵本「釈迦の本地」も含まれており特に注目される。本作と類似の作品が西尾市の岩瀬文庫にも所蔵されており奈良絵本研究に一石を投じる作例となり得ると予測される。 また、別に金刀比羅宮の宝物台帳にも記載の無い屏風一点を新たに発見することができた。これは江戸時代初期に活躍した狩野尚信による六曲一隻屏風であり、長文の年記を持つ点でも興味深い。比較的作例の少ない若年期の作品であり、慎重な検討は必要なものの、狩野尚信研究においても重要な位置を占めることになる作品であると予測される。これらについては2007年8月末に調査と撮影を行い、鋭意取りまとめの後、報告する予定である。 また、金刀比羅宮の庶民信仰資料としてきわめて重要な資料となる「扁額縮図」が再発見されたことも予期せぬ成果であった。これは幕末時に金刀比羅宮に残されていた扁額や絵馬を肉筆で縮写した画帖類であり、現在では失われてしまった絵馬も数多く記載されていることから、金刀比羅宮の歴史を考える上で貴重な資料となる。これは本年度に日本国内を巡回した「金刀比羅宮書院の美」展を契機に久しぶりに公にされたものである。本研究課題にも密接に関連した資料であるため、2008年2月末に調査を行った。但し展覧会へ供出中のため全八冊のうち調査は六冊に留まっている。残り二冊は次年度を期したいと考えている。一図一図が細密に描写されており、数も多いので詳細な分析には時間がかかりそうだが、鋭意研究を進めたい。 年度前の予想に反して文献史料の調査が手薄になってしまったが、上述のように、本年度は興味深い作品の発見が続いた事情から、作品中心の研究活動を行った。
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