金刀比羅宮所蔵美術品の網羅的把握という当初の研究目的に沿って美術品の調査をさらにた。当該年度においては、昨年度までの調査の成果もあって埋もれていた作品の新発見は無かったが、これまで十分な調査の機会の無かった表書院の円山応挙筆障壁画群について熟覧と細部の調査を行うことが出来た。これは平成20年10月15日から12月8日までパリ・ギメ東洋美術館で開催された「こんぴらさん 海の聖域展」に伴うものである。 特に通常の表書院の自然光の中で見るのとは異なり、また日本の美術館の制限された光量で見るのとも異なり、西洋の美術館が設定した強い光の下で作品を熟覧することが出来たことで、これまで気づくことの無かった補筆・補彩の状況や、素地の補修状況を確認することが出来たことは大きな成果であった。またギメ東洋美術館における光のメリハリを利かせた立体感のあるライティングは、作品の新しい魅力を浮き彫りにし、作品解釈において「気韻生動」という観点の重要性を再確認することに繋がった。上記「こんぴらさん 海の聖域展」の準備の過程において、カタログ作成にも参加し、12点の主要作品について作品解説を担当し、研究成果の一部を公表した。さらに、研究成果を踏まえる形で、上記ギメ美術館での展覧会における作品解説DVDにも出演し、主要な作品の解説を行った。 このほか研究成果を踏まえて、名古屋大学における美術史研究会において、表書院の円山応挙筆障壁画群についての口頭発表を行うとともに、陜西師範大学との国際シンポジウムにおいても円山応挙筆障壁画群の特色について口頭発表を行った。
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