研究概要 |
本研究の特色は,イタリアの画家アルテミジア・ジェンティレスキ(1593-1653)が「フェミニズム美術史のイコン」となっていく過程を,他の女性芸術家たちとも関連づけながら,(1)1970年代以前,つまりフェミニズム美術史の出現以前,(2)1970および80年代におけるフェミニズム美術史によるこの画家の神話化,(3)1990年代における本格的研究の活発化,という三期に大きく分けて調査検討するところにある. 平成18年度の重要な調査活動として,(1)の1970年代以前,とりわけ日本では入手が難しい20世紀以前の資料の収集に努めた.女性芸術家関係の読み物や伝記の数が増え始める19世紀を中心とする一次資料については,事前の調査でリストアップし,ロンドンとパリで収集できた.英語の文献については,ロンドンのブリティッシュ・ライブラリとナショナル・アート・ライブラリにおいて,アメリカで出版されたものを含めて複写やデジタル写真撮影が効率的に実施できた.そのため,ニューヨークでの調査については割愛し,その分の予算と時間を収集した文献資料のデジタル画像化(一部e-text化)などにあて,整理・解読を行った. 女性芸術家と「偉大さ」の神話の問題は1970年代にはじまるフェミニズム美術史において意識化された.しかし,このような学問的研究が活発化する以前に,19世紀の通俗的伝記などにおいても,視点は異なるとはいえ女性の芸術家と「偉大さ」の問題は意識されている例があることが新知見として確認できた. 今年度は,以上のような経過で,フェミニズム美術史が女性芸術家を神話化する構造を分析するための基礎を固めることができた.
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