本年度は、昨年度に引き続き19世紀と20世紀の女性芸術家についての資料を、アルテミジア・ジェンティレスに関するものを中心に収集し、アルバイトを雇用して撮影・複写しアーカイヴ化した.とくに、19世紀の資料については雑誌系の調査も行い、ジェンティレスキについての細かな言及の追跡を実施した。これらの調査結果と、1970年代のフェミニズム美術史勃興以降のジェンティレスキ芸術に関する記述との比較検討を行い、19世紀から20世紀にかけてのジェンティレスキ評価の変遷を学術研究と一般啓蒙書の双方において確認し、ジェンティレスキがフェミニズム美術史の偶像となっていく過程を解明した。 また、「マリー・バシュキルツェフと伝記映画」(『芸術工学研究』vol.8、2008)を発表した。バシュキルツェフは19世紀末にパリで活躍したロシア人画家であり、1935年に上映された『マリー・バシュキルツェフ』はフィルムが残っていないためにほとんど知られていないが、女性芸術家を主人公としたおそらく最初の映画である。この論文では女性芸術家が伝記映画においていかに扱われるかを考察したが、その検討内容は1997年の上映以後フェミニズム系の美術史学者だけではなく文学者や映画理論研究者の間で盛んな議論の対象となってきた映画『アルテミシア』につながるものであり、ジェンティレスキにまつわる女性芸術家の神話の検討につながる前段階的研究でもあった。
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