前年度までに収集した宮廷箏曲に関する楽譜(『仁智要録』5種類、『類箏治要』4種類)を中心に復元を試みた。復元曲は22曲(壹越性調「絃合」「棲合」「由加見調子」「小調子」「斗絃調子」、平調「絃合」「登撥合」「品絃」「千金調子」「撥調子」「斗絃調子」、大食調「絃合」「登撥合」「調子」、双調「絃合」「撥合」、水調「絃合」「撥合」「調子」、盤渉調「絃合」「撥合」「調子」)で、現行箏曲譜形式で記譜したものと、それの五線譜訳譜を作成した。復元した結果、以下の特筆すべきことが判明した。 【調絃】平調は、本来第三絃と第八絃がオクターブを成すべきところ第八絃は半音低く調絃しておき、左手で絃を推して高める方法を取っている。盤渉調も同様に、第六絃と斗絃の関係が同じ手法が取られている。 【奏法】「連」は、現行楽箏では親指で手前から向こう方向へのグリッサンドだが、中指・人指指で隣り合う二つの絃を向こうから手前方向に掻く奏法で、これは筑紫箏曲の「颯」に共通する。「かかげ合わせ」は、現行楽箏では「かき合わせ」と称するパターン奏法だが、中指・人差指・親指の三指で同時に弾く和音奏法だった可能性も考えられる。調絃音の関係上、左手奏法の「推入」や「推放」が単なる余韻装飾ではなく、音階構成の必然性から頻繁に使用されている。 【撥合・調子】現行楽箏曲と異なり、親指だけではなく中指や人差指を駆使して弾くため、全体的に琴(きん)曲に類似した楽曲である。
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