研究の二年次(最終年次)に当たる本年度は、「感情移入(Einfuhlung)」を、まず、新カント派のヘルマン・コーヘン(Hermann Cohen)の純粋感情論、および、モーリス・メルロ=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty)の現象学的身体論と比較しつつ、認識論的・知覚論的側面から検討した。次に、ヴィルヘルム・ディルタイ(Wilhelm Dilthey)の「生の哲学」における「体験・表出・了解」ならびに「解釈」概念、および、マルティン・ハイデッガー(Martin Heidegger)の『存在と時間(Sein und Zeit)』における「存在了解(Seinsverstandnis)」概念と比較しつつ、存在論的・実存論的側面から検討した。このような比較検討を通じて、感情移入が、主客融合・心身相関に基づいて体験と解釈とを綜合する存在了解として捉えられること、そして、それに伴って、感情移入の美学が、体験の心理と解釈の論理を綜合する存在了解の学として捉え直されるべきことを明らかにした。さらに、応用的な考察として、本居宣長が日本的な美意識として主張した「もののあはれ」との比較を通じて、西洋的な「行為の論理」に基づく「主客の相関」と東洋的な「場の論理」に基づく「自他の反転」とが、意識の方向を異にした「存在了解」としての「感情移入」と「もののあはれ」とをそれぞれ規定していることを明らかにした。 本研究の成果の一部は、第17回国際美学会議での口頭発表("Japanese Aesthetic Consciousness and the Logic of<Field>")、第5回西田哲学会年次大会での口頭発表(「相関と反転」)、<Corners of the Mind>所収の論文("The Interlacement of Being and Meaning in Aesthetic Experience")等で公表した。
|