本研究は、1650〜1750年の間に、ドイツ・プロテスタント地域で繰り広げられた教会音楽に関する種々の神学的論争について、包括的に研究しようとするものである。当時の当時の音楽に関する一連の神学論争へのレスポンスを体系的に検証し、その系譜を明らかにしていくことを目標にしてきた。 3年間の研究において収集した資料をもとに、1600〜1750年を中心とする時代のドイツ・プロテスタント神学資料における音楽に関する記述の包括的データベースを作成した。これは、一般書誌情報に加え、資料分析の過程で、人名、神学資料同士の参照関係、影響関係、聖書引用箇所などを項目としている。 資料は主に、機会説教(音楽家の死の葬式説教、オルガン奉献説教)、一般神学書における音楽の記述、教会音楽の意義に関する論争、音楽理論家の宗教的・神学的考察、大学やギムナージウムにおける機会演説や論文、といった種類に分けることができる。 本研究の当期における最終的な成果としては、これらの資料の系譜と関連を書誌学的に分析した報告を行い、かついくつかの典型的と考えられる資料の分析例を提示することである。 研究成果報告書には以下の内容を盛り込んでいる。教会音楽の意義を巡る論争および敬虔主義のAdiophoraに関する教義と音楽実践の関連、当時の音楽の神学的・牧会的意味づけが正当主義的神学に基づいて実際にいかに語られていたかの分析、市民生活と教会との関連の変質に伴う教会における音楽の実践の意味の変化等である。全体として、これによって、当時の宗教音楽思想、教会音楽思想をめぐる神学的葛藤の輪郭を明らかにしたが、実際の音楽創作や実践の場面における歌詞選択や主題選択と神学思想との関連について、今回の資料を基にさらに今後行うべき研究の可能性に関する視野も開けてきたといえよう。
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