17はじめから19世紀半ば頃までの琳派作品受容の実態について、まず、注文者の社会階層、注文の目的、作品の用途と社会的機能、絵師の身分と活動状況、地域(主に京都・江戸・大坂)、時代の変化(政治・経済など)、都市文化、などのファクターを重視しつつ分析し、それらと琳派作品の、主題、画題、画面形式、造形的な様式などとの相関関係を考察することに努めている。それによって、江戸時代の社会のなかで琳派作晶が担った役割と位置付けについて考察していくことにしている。 旧蔵者などのデータを入れた琳派作品の全作品目録の完成を急いでいる。このデータベースの作成に意外なほど時間がかかり、未だ完成には至っていないが、もしこの目録がかなりの部分が完成するとしたら、今後の琳派研究に新たな地平を開くものと確信している。作品論と作家研究を中心に展開してきた従来の琳派研究に対して、本研究では、江戸時代の絵画史の問題に止まることなく、琳派作品が提供した視覚的イメージが当時の社会でどのように機能して行ったかを総合的に捉えようとする点に特色がある。そのためにイメージ資料のみでなく、琳派に関するさまざまな言説・文字資料の収集にも努めている。さらに『住吉家古画留帳』(東京芸術大学蔵)などの絵画補助資料の収集も行っている。それらを総合的に突き合わせて、江戸時代における琳派作品の総体的なあり方を把握し、琳派の絵画史的な意味を問いたいと考えている。
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