研究概要 |
本年度は、高村光太郎編訳『ロダンの言葉』(1916(大正5)年)と『続ロダンの言葉』(1920(大正9)年)に引用されているクラデル原典について資料収集を行った。フランスの女流文学者でジャーナリストのジュディット・クラデル(Judith Clade 11873-1958)のロダンに関する著作は、高村光太郎のロダン理解において極めて重要であった。まず、Auguste Rodin, l'oeuvre et l'homme,1908(『言葉』中の「ジュヂトクラデル筆録」)は、パリ滞在中に入手し、年代的には渡欧前に日本で読んでいた英訳本のモークレールの著作の次の大著であり、後の『言葉』発刊に際してその「凡例」に「ロダンを親しく知るには一番いい本」と記しているように、高村が依拠と信頼とするところのものであった。『言葉』の中で割かれたページ数も多い。 上記のものを含め、"Rodin's Note-Book", Century Illustrated Magazine,1914とRodin, The Man and His Art with Leaves from His Note-Book,1917(『続・言葉』中の「英訳「ロダン伝」」)を入手し、高村訳の該当部分と照合させ、翻訳作業とテキスト・クリティックを行った。 概観すると、高村は他の評伝作家の「筆録」を扱う場合と同様に、「編訳」つまり、重要ないし特徴的と判断した箇所をまとめて抜き出して、彼らの状況説明や対話部分を省略あるいは簡略化し、ロダンの言葉の引用部分だけを抽出して『言葉』を構成している事態が明確になった。しかし、抽出した箇所の翻訳は正確であり、自ら言うように「潤色を加えていない」「詩的でない」ものであったことが確認された。 研究課題の高村光太郎編訳『ロダンの言葉』の形成過程の議論の前提となる、欧文原典の概観と見通しを『日本大学芸術学部紀要』第45号に発表(11.研究発表を参照)した。
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