研究概要 |
平成19年度は、高村光太郎編訳「ロダンの思想」『帝国文学』(1916(大正5)年)と『続ロダンの言葉』(1920(大正9)年)に引用されているフレデリク・ロートンの原典について資料収集と分析を行った。おそらく英国人であった文芸研究家・ロダンの秘書・通訳(期間1905年3月21日〜5月22日)のフレデリック・ロートン(Frederick Lawton?-?)のロダンに関する著作は、クラデルらの先行文献も使用しているようにそれまでの紹介や資料を利用しつつも、独自の意見に貫かれた体系的な著作となっており、また得意な英語文献である点も、高村光太郎のロダン理解において大いに参考となった。まず、Life and Work of Auguste Rodin,T.Fisher Unwin,1906(『言葉』中の「フレデリクロートン筆録」)は、『言葉』の中でまとまって引用されてページ数も多い。さらに、その縮約版と考えてよいFrancois Auguste Rodin,E.Grant Richards,1907(『続・言葉』中の「ロダン小傳」)についても、高村訳の該当部分と照合させ、翻訳作業とテキスト・クリティックを行った。 その研究成果として、研究課題の「高村光太郎編訳『ロダンの言葉』の形成過程と影響」のうち、前年度研究のクラデルと今年度のロートンの原典と高村編訳の関係について、『日本大学芸術学部紀要』第47号に発表した。また、本研究に付随して明らかになったロダン研究の現況に関して、「ロダン神話の解体と展望」を発表した。 本研究の新たな知見として言えることは、予測されたことではあるが、高村は他の評伝作家の「筆録」を扱う場合と同様に、「編訳」つまり、原典の重要ないし特徴的と判断した箇所を選択し、翻訳の機会の時系列に順次付加的に構成しているが、状況説明や対話部分を省略あるいは簡略化し、ロダンの発言の「筆録」部分だけを抽出して『言葉』を構成している事実が明確となった。しかし、抽出した箇所の翻訳は正確であり、自ら言うように「潤色を加えていない」、「詩的でない」ものであったことが実証的に確認された。今後、他の筆録原典との関連の研究が継続される。
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