本研究の目的は、日本近世の絵画鑑定のあり方、絵画評価の様相、絵画価格の把握の局面から、日本近世において絵画は如何なる価値を持つものとして認識されていたかを問い、日本近世の絵画観を明確にすることにある。 今年度の前半は主として茶会記に現れた絵画を分析することによって桃山時代の絵画観を明らかにしようと試みた。具体的には如何なる作品が茶席を飾っていたか、その作品を茶会記は如何に記録していたを分析した。その結果、明らかに室町時代の鑑賞や評価の様相とは異なるものがあった。作品を唐物という財産として所有し、展示する時代は終わっていた。作品そのものを絵画として鑑賞する時代となり、図様や筆法が評価されていることが茶会記の記述に見ることができた。それは昨年明らかにした『等伯画説』にみる技法優先の絵画観に共通するものである。とはいえ、茶会記に見出される鑑賞記録には表装への関心が高いという特色は、室町時代の絵画を財産として見るという姿勢が保持されていることを確認した。 後半は、江戸時代に記録である『槐記』を取り上げ、江戸時代の絵画観を探った。ここでは、絵画はその作品が持っている「おもむき」を鑑賞することが重視されているを見出すことができた。狩野探幽が出現することによって、桃山時代様式は一変し、絵画は「瀟洒」を様式として獲得することになったが、それを支えている絵画評価の姿勢を『槐記』に確認することができたということができる。さらに『探幽縮図』にそうした鑑賞の対象となった絵画の流通の様相を分析し、鑑賞と制作の相関性を問うた。
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