研究目的 19世紀の印刷革命を経たのちの美術書は、それまでのものと大いに変容する。美術史の作品記述において図版が重要な役割を果たすようになってくるからである。19世紀以前の美術書においては、作品の説明はほとんど言葉で行われた。この美術史記述への図版の導入が記述そのもの、ひいては美術史そのものの性格を変えていくことになったはずである。本研究は図版機能の問題を近代フランスを舞台に具体的かつ理論的に分析しようとするものである。このような研究は我が国だけでなく、海外においてもほとんど例がなく、美術史研究の基礎として、それだけなく、より広くイメージと言葉の関係の歴史としても大きな意義を有するものと考える。 研究実施計画 研究期間である平成18年度から20年度の3年間、夏期休暇を中心に、主にパリの図書館(フランス国立美術史研究所図書館、パリ市立フォルネイ図書館)において、19世紀から20世紀のフランスで出版された美術書を網羅的に見聞して、さらに、古書店を通じて当時の美術書を資料として購入してきた。研究最終年である今年度は、それまでの2年間に十分に調査できなかった時代、とくに色彩図版が挿入されてくる、1920年、30年代の美術書の調査にあたった。それによって、19世紀中葉から1930年代までのフランス美術書における図版挿入の展開をほぼ把握することができた。さらに、パリにおいてはルーヴル美術館学芸員とも議論することができ、研究内容の意義について確認することができた。ただし、懸案であった理論面での展開が十分ではなく、考察のための時間が必要となった。なお、予定していた 論文、口頭発表等は今年度へと繰り延べとなった。
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