本年度は、昨年に引き続き造像関連文書(製作仕様書)について史料収集を行った。奈良県・薬師寺講堂釈迦三尊像、和歌山県根来寺大門金剛力士像にかかる造像文書のほか、長野県・神津家文書などを調査した。これらの調査からは、造像文書の発給が当該造像のみならず周縁部での造像獲得に有益であること、また文書発給が造像を巡る競望に有効な手段はあるが、後には単一の見積案となり、施主側の意向によって実現に至らない事例も確認できた。さらに詳細な細部の形状や仕様は、図像集あるいは仏師側に蓄積される文書から導かれる場合が多いことが確認できた。江戸時代後期になると、形状の定形化によって造像文書での記述内容は減少し、造像経費明細を重視した内容へと変化していく。以上の傾向は、叡山文庫架蔵の造像仕様書でも確認することができた。この成果をもとに「京都仏師関連文書」(関西大学文学部芸術学美術史専修蔵)の調査を行った。「京都仏師関連文書」は七条仏師関係と清水定運関係に関わる文書群からなり、前者は広範囲に彫刻、絵画を問わず既存の作品からその図像を収集しているのに対して、後者は清水定運が手がけた仏像を列記しており、各事蹟での法量と像の概要、造像経費が記されており、上述の検討を補強する結果となった。近世京都仏師の広範な活動内容は、定朝・運慶などの肩書からくる京都仏師の伝統に負うところが大きいともいえるが、細部にわたる仕様とその経費根拠を明らかにした点が大きく、大坂仏師、江戸仏師や鎌倉仏師にも波及したと考えられ、ここに近世仏師の大きな特色が認められうる。
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