平成18年度より各図書館・文庫所蔵の読本および関連作品群について書誌・内容調査を行い、書誌的事項についてのデータベースを作成している。また、初期読本とそれ以前に刊行された関連書物について、体裁と内容の面における様式の変遷を考察している。 本年度は引き続き、初期読本作品に影響を及ぼしたと思われる先行作品群について、書誌調査とデータベース化を行った。特に読本の内容世界の基盤を形成したと思われる近世前期に成立・流布した作品群に焦点を当て、内容上の特徴と初期読本を含めた後世文芸作品への影響について考察した。近世怪異小説の一源流とされる寛文三年刊の怪談集『曾呂里物語』は、寛延二年頃成立の怪談集『因幡怪談集』や明和九年刊の怪談集『怪談記野狐名玉』、宝暦十一年刊の仏教長編小説『勧化西院河原口号伝』に収録された怪談話の原話として位置づけられる。また、この『曾呂里物語』は、延宝五年刊の怪談集『御伽物語』(別称『宿直草』)への直接の影響関係が見られる。なお、『曾呂里物語』の本文翻刻および書誌調査を『仮名草子集成』第45巻にて行った。本作品を翻刻した『近代日本文学大系』、『江戸怪談集』(岩波文庫)、帝国文庫本では、従来流布本である無刊記板を底本として使用しているが、今回は流布本に先行して刊行された寛文三年板を底本とした。また書誌解題では、流布本と寛文三年板、異板『目覚物語』との関係について考察した。 書誌調査については、大谷大学図書館、龍谷大学図書館、西尾市岩瀬文庫所蔵の長編仏教小説、雑史、軍書、実録、仏教説話、教訓書、仮名草子作品について行った。
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