研究概要 |
1.三島由紀夫作品翻訳書目の作成 三島由紀夫の中華人民共和国・台湾・韓国で刊行された翻訳作品目録を作成した。従来,三島の被翻訳テキストの出版状況はアメリカ・ヨーロッパに関する調査が中心であったが,現状を分析した結果,欧米とは異なる現代日本文学の翻訳を通した受容のあり方が明らかになった。 2.『暁の寺』『熱い絹』に見られる戦後日本文学に表れた東南アジアのイメージ表象の分析 『暁の寺』に表れたタイ王妃の肖像画等の文化・歴史をめぐるイメージ表象の分析を行い,三島のテキストが絵画・建築などの視覚表象といかに関連するかについて考察した。さらに『暁の寺』と松本清張の『熱い絹』とを比較しつつ分析した結果、戦後文学の東南アジアをめぐるイメージ表象は,戦後の経済的進出に伴う国際関係やセクシュアリティ規制の変容が影響していることが明らかになった。現地調査を行った両作家の創作の過程をたどり,国際的広がりを持った戦後文学の一側面について考察した。 3.三島由紀夫作品の翻訳をめぐる受容とアジアという表象についての分析と考察 1の調査結果の分析結果、台湾・中国・韓国のそれぞれの国内事情及び日本文学・文化の受容のあり方が翻訳テキストの選択や出版状況などに反映していることが明らかになった。さらに2の研究を通して『暁の寺』『熱い絹』などのテキストに描かれた東南アジアをめぐる表象は,戦後日本社会が対峙した政治的・経済的問題を反映していることがわかった。1と2の研究成果を総合的に分析することによって,文学テキストに表れたアジアというイメージ表象とアジア諸国の日本文学の受容のあり方という相互の文化・文学の受容の一側面を双方向的な視点を通して考察することができた。
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