1、三カ年の研究期間の初年度にあたる平成18年度は、平敷屋朝敏の四編の擬古文物語「若草物語」「苔の下」「万歳」「貧家記」の先行研究収集と、「若草物語」および「苔の下」の読解・注釈作業が中心となった。いまだ基礎作業の段階であり、本年度に関しては研究成果をおおやけにするには至っていない。 2、先行研究は数量的には多くはないが、沖縄県内で手に入らないものが多く、おもに国会図書館と国文学研究にて収集し、必要なものについてはほぼ入手できた。 3、「若草物語」「苔の下」の読解・注釈作業については、まずこれらの本文(沖縄県立博物館蔵本を底本とする)を電子テキスト化し、先行する注釈(仲原裕と玉栄清良によるものがある)を併記し、さらに萩野自身の注釈を加えることにより、最終的に現段階での「平敷屋朝敏作擬古文物語・注釈集成」となることをめざしながら作業を進めていった。現在「苔の下」における作業の途中であるが、先行注釈に加えられるものが少なからずある。 4、日本の古典文学史において、「擬古」の物語といえば、近年「中世王朝物語」と呼びならわされている鎌倉期.室町期の物語群がある。朝敏の「擬古」の特色をつかむため、「中世王朝物語」についても読み進めているが、その「擬古」意識に大きな開きがあることがわかった。平安期に隆盛した物語文学の世界観を中世的に引き受けて成り立つ「中世王朝物語」に対して、朝敏の「擬古」は世界観にかかわるものではない。次年度は、注釈作業を進めながら、この点についての解明をめざしたい。 (50字×14行)
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