本年度、調査を実施した機関は、東京都においては、国立国会図書館、国立公文書館などである。それ以外では、大阪府立中之島図書館、住吉大社御文庫、天満宮文庫(以上いずれも大阪市)、京都大学附属図書館、同人文科学研究所(いずれも京都市)、金沢市立玉川図書館(金沢市)、三原市立中央図書館(広島県三原市)、筑波大学付属図書館(つくば市)などである。 これら機関において調査したのは、『寄園寄所寄』、『隷続(翻刻隷続)』、『隷弁』、『字貫(字貫提要)』、『江邨銷夏録』、『じ古録』、『春秋左氏伝評林』、『春秋釈例』、『水滸伝』各種、『世説新語補』などの明清漢籍原典とその和刻本、およびその稿本、およびその関連書目である。これは奥田松斎『拙古堂日纂』を参考にサンプル書目として抽出したものであり、舶載書原典の版式、著者、板元、和刻本の版式、加工の様態について考察する目的で行った調査である。その中で、大阪住吉大社御文庫、大阪天満宮御文庫には、刊行直後に本屋から寄付されたいわゆる奉納本があり、和刻本も「準漢籍」として一定量収蔵されていることが判明した。しかも奉納先の性格上、初版の善本が多い。また、金沢市立玉川図書館近世史料館の大島文庫は昌平坂学問所儒官であった大島贄川の旧蔵書であり、ここにも官版などまとまった和刻本がある。官民の差はあるが、両機関の蔵書は漢籍受容の最初期の段階で考察する有益かつ適切な事例になると判断した。また、こうした書目調査を展開する中で、『春秋左氏伝』、『世説新語』によせる関心は、近世中期の学芸思想史を考察する上でとくに注意を要するという印象を持った。平賀晋民は両者について著者があり、晋民をスタディーケースとして考察する試みを始めている。両者ともに研究課題の絞り込みになったと評価している。 制作に関与する人々については、現在『大坂本屋仲間記録』登載の漢籍について、作者、訓点者、筆者等、漢籍原典に関与するありかたと関与者について、基礎資料を作製中である。 また、明清漢籍を縦横に利用して著述された森川竹窓の書学書『雨粟余情』について、国立国会図書館本を底本として全文翻刻し、解題を付した「『雨粟余情』研究-翻刻と解題-」を所属機関の紀要に発表した(中川美和氏と共著。11研究発表参照)。
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