昨年度に引き続き、上代文学における漢字使用の総体的様相を探るため、デファクト・スタンダードとなるべき平準化されたユニコード版テキストファイルの作成を続けている。『万葉集』については研究に十分耐えうるファイルが完成した。『古事記』、『日本書紀』、『風土記』はすでに第一校正まで終了した。また、続日本紀宣命についても同様のテキストを作成した。そして、さらに精緻な研究環境を整えるため、『古事記』、『日本書紀』、『風土記』については。ワンセンテンス毎に改行されたテキストファイルを校正をかねて作成中である。これが完成すれば、これまで不可能だった「文単位」の文字研究が可能になる。しかし、大量の異体字とユニコード外の文字の問題は、いまだ課題として残されてもいる。 一方、完成したテキストファイルを用いた研究は大きな成果をあげた。刊行がずれこんでいるが、万葉集の学会誌「万葉」に掲載される「カイ二乗検定を用いた万葉短歌の声調の分析」がそれである。多変量解析という、これまでにない手法で万葉短歌の声調を客観的に分析し、今まで感覚的にのみ捉えられていた「声調」を外在化した。さらに、「神亀四年正月の雷電」においても、万葉集中の細かな用例調査に上記テキストファイルが用いられた。 今後、さらに多変量解析を利用し『古事記』、『日本書紀』の文字の諸相について研究を進め、最終的には日本上代文学の漢字の使用状況を総体的に論じる予定である。
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