昨年度に引き続き、上代文学における漢字使用の総体的様相を探るため、デファクト・スタンダードとなるべき平準化されたユニコード版テキストファイルの作成を続けた。その結果、『万葉集』、『古事記』、『日本書紀』、『風土記』のユニコード版テキストファイルを完成させることができた。さらに、『古事記』、『日本書紀』、『風土記』については。ワンセンテンス毎に改行されたユニコード版テキストファイルも完成させ、さらに精緻な分析が可能となるとともに、これまで不可能だった「文単位」の文字研究が可能になった。しかし、これまで同様、大量の異体字とユニコード外の文字の問題は、いまだ課題として残されている。 一方、完成したテキストファイルを用いた研究は「カイ二乗検定を用いた万葉短歌の声調の分析」(万葉202号)として結実した。多変量解析という、これまでにない手法で万葉短歌の声調を客観的に分析し、今まで感覚的にのみ捉えられていた「声調」を外在化することに成功した。特に東歌と憶良歌は、これまでも享受者が感覚的に他の万葉歌と違うと感じていたものであるが、この点を数値化できたことは、文学研究における多変量解析の導入の先鞭となった。さらに、「日本語韻文書記についてのモデル論構想」(全国大学文学語学196号)では、これまで見過ごされていた歌木簡を利用し、日本語韻文書記史への構想を論じた。その際、万葉集中の細かな用例調査に上記テキストファイルが用いられた。
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