本研究は、人形浄瑠璃において人形表現の根本をなすうなづき構造の成立の問題を解き明かそうとするものである。現在の人形浄瑠璃は、たいへん写実的で繊細な人形表現を完成させたが、この人形表現で重要な役割を果たすのが引栓式といううなづき形式である。引栓式の高度な人形表現は人形浄瑠璃発生時から存在したわけではない。かしらのうなづき形式が、幅歯棒式から小猿式へ、小猿式から引栓式へという発展過程を経て、現在の芸術的な人形表現が完成したのである。では、一人遣い以前、人形戯発生時のかしらのうなづき構造には、どのような意味があったのだろうか。また人形表現上重要な意味を持つうなづき構造は、日本人の発想か、それとも大陸伝来の考え方によるものか。この問題を解決するために、まず民俗行事の人形戯や一人遣い人形など三人遣い以前の人形、及び大陸伝来といわれる糸操り人形や串人形、指人形などの三人遣い以外の人形の調査・記録・基礎データ収集を行い、それをもとに考察していく。今年度は群馬県吾妻郡高山村の尻高人形のかしらと操り方の調査と3演目の映像記録、石川県白山市東二口に伝承されている一人遣い人形芝居2演目の映像記録を行った。また、研究成果としては「人形に見る身体技法-日中の比較から-」(平成18年6月『神奈川大学21世紀COEプログラムシンポジウム報告2 非文字資料とはなにか〜人類文化の記憶と記録〜』所収)、更に本課題のもとにある三人遣いかしらの、うなづき構造の発展過程に関する研究の成果としては、平成18年4月『平成15〜17年度科学研究費補助金基盤研究(C)研究成果報告書 人形浄瑠璃の発生と展開に関する研究』(課題番号15520117)、平成19年3月「人形浄瑠璃の三人遣い成立に関する研究-群馬県渋川市赤城町津久田人形資料より-」(『昭和女子大学大学院生活機構研究科紀要』vol.16-2)がある。
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