本研究は、人形浄瑠璃において人形表現の根本をなすうなづき構造の成立の問題を解き明かそうとするものである。現在の人形浄瑠璃は、たいへん写実的で繊細な人形表現を完成させたが、この人形表現で重要な役割を果たすのが引栓式といううなづき形式である。引栓式の高度な人形表現は人形浄瑠璃発生時から存在したわけではない。かしらのうなづき形式が、偃歯棒式から小猿式へ、小猿式から引栓式へという発展過程を経て、現在の芸術的な人形表現が完成したのである。では、一人遣い以前、人形戯発生時のかしらのうなづき構造には、どのような意味があったのだろうか。また人形表現上重要な意味を持つうなづき構造は、日本人の発想か、それとも大陸伝来の考え方によるものか。この問題を解決するために、まず民俗行事の人形戯や一人遣い人形など三人遣い以前の人形、及び大陸伝来といわれる糸操り人形や串人形、指人形などの三人遣い以外の人形の調査・記録・基礎データ収集を行い、それをもとに考察していく。今年度は、人形戯の古態を探る上で重要な資料の一つである福岡県築上郡吉富町八幡古表神社の細男舞と神相撲の聞き取り調査及び映像記録、三人遣いで鉄砲差しを継承する人形座の中で、ブラリ式かしらを遣う淡路人形の遣い方に関する聞き取り調査と映像画像記録、小猿式かしらを遣う神奈川県小田原市の下中座の遣い方に関する聞き取り調査と映像画像記録、同じく小猿式かしらの神奈川県厚木市の長谷座のかしら・衣装調査と聞き取り調査、更に近代の指人形である福島県喜多方市入田付のふくさ人形のかしら等の調査を行い、かしらデータ及び画像映像資料等の収集を行った。今年度の成果は、本課題研究の成果報告書に収める予定である。
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