本研究は、大学における近現代日本文学研究の方法の確立に重要な役割を果たした「近代文学」済に着目し、近現代日本文学研究の問題点を明らかにしようとしたものである。雑誌創刊同人七人のうち埴谷雄高をのぞく六名は、後に大学教員として近代文学を講じている。そこで、彼らのアカデミックでの活動の精査は、現在に至る近現代文学日本文学の研究スタイルの究明につながると考えた。 本研究は、「近代文学」派の評論や研究を、次世代の研究者がどのように評価しているかという枝点を初年度以来取り入れ、研究を行ってきている。これまでに、元北海道大学教授神谷忠孝氏、法域大学教授勝又浩氏、帝京大学名誉授佐藤勝氏などの証言を得た。その結果、近代文学研究を先導してこられた研究者たちの研究スタイルや方法、また、雑誌「近代文学研究」創刊時の頃のエピソードなどを伺うことができた。また、「近代文学」派の評論家たちの研究方法や、大学教員としての教育者としてのあり方などのお話も伺うことができた。 平成21年度は、研究の成果を何らかの形にして世に問うべく、雑誌「近代文学」の第一次同人拡大に際して、野間宏・三島由紀夫らと同人に加入した久保田正文についての調査研究の成果を単行本として刊行した。久保田正文について調査研究していく段階で、雑誌発表のまま単著にまとめられずに埋もれている重要な評論などが数多くあることが判った。そこで、久保田の生前の単行本未収録の短歌・評論・エッセイなどを集成するとともに、「近代文学」派との交流のなかで行われた膨大な量の執筆を著作目録(66頁)で明らかにし、御子息の校閲も得た年譜(6頁)、さらに解題(24頁)を加えて刊行した。
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