本年度は、当初の研究計画に基づき、主に韓国、中国、台湾を対象に、「私小説」認知現状の調査、「私小説」作品翻訳比較に向けての準備、あわせて「私小説」研究の現状調査を行った。実質的には、夏・冬にワークショップ、秋に研究集会、合計8回の勉強会を開催し、これらの内容報告については本研究課題ウェブサイト(htt://www.i-novel-hosei.or/kaken.htm)にて公開している。勉強会では、次年度比較検討を予定している女学伝統、風土・社会構造の問題につながることも多く、具体的指針を得ることができた。「私小説」認知現状の調査は、「中国、韓国における「私小説」認識」として「日本文學誌要」第75号に発表したものの他、台湾での調査結果の発表を予定している。調査の結果、これら3国においての認知状況は大変高く、特に中国、韓国においては統計上85%を超えること、一方で、その知識が研究書などによるもので理解の段階にまでは至っていないことが分かった。また、収穫として、近年中国、韓国の現代文学に個人化の傾向が見られること、特に中国では「個人化写作」なる「私小説」に類似する文学作品があるということが報告され、今後、これら現代文学を視野に入れた検証も必要ということになった。翻訳比較の準備としては、日本語文学作品の中国語・韓国語翻訳における問題点の検証の他、志賀直哉「城の崎にて」の韓国語訳を利用した実際の翻訳比較にあたっての問題点の抽出を行った。その結果、翻訳比較をする場合、言語そのものの問題と、翻訳者による問題とが混ざってしまうことが分かり、比較方法については修正を行い次年度のワークショップにて具体的検討に入ることとなった。「私小説」研究現状の調査としては、勉強会での報告の他、中国で出版されているi魏大海『私小説20世紀日本文学的一个"神話"』(2002、山東文藝出版社)の翻訳を行った。
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