本研究は、近世以降現在までの東海地方の俳諧資料を収集し整理して、その特徴を明らかにすることを目的としている。そこで、当初の研究実施計画に従い、次のことを行った。 1、個人所蔵の資料の撮影・複写につとめた。 2、前年度に続き、名古屋市蓬左文庫所蔵雑賀文庫を中心に、尾張狂歌の影響関係を視野に入れて、俳諸関係者の狂歌資料の収集につとめた。 3、遊戯的な雑俳を含む資料紹介・翻刻が少ないので、次の2点を翻刻紹介した。 (1)翻刻『妄言反古志津保具双帋』全とその紹介(二)(「社会とマネジメント」5巻1号2007年9月) 本書は、享和元年頃から文政13(天保元)年頃までの真酔の狂文・序跋などを、玉晁が収載したものである。真酔は狂俳点者もしたので、狂俳集や地口巻の序も含まれる。当時の尾張の町人、彫工を家業とした階層の教養の高さと、洒落気が窺われておもしろい。そこで、前年度翻刻した上巻に続き、下巻を翻刻して紹介した。 (2)翻刻『狂俳道しるべ』初編とその紹介(一)(「社会とマネジメント」5巻2号2008年3月) 本書は、狂俳書には珍しく、俳号に本名又は通称と簡単な所在地(中には職業も)を記して「雅用風交録」の役目を担い、明治17(1884)年に、現在の愛知県岡崎市で出版された句集である。点者の選句の好みを知る参考書の役割をも担い、継続発行を意図した。構成は、所在地域を大きく7区分し、東海地方の他、東京の部もある。当時、東京にも狂俳結社があり、交流のあったことが窺える。このような狂俳書は、とても珍しいので、本稿では、三河国額田郡の部・碧海郡の部を翻刻紹介した。
|