ます、新生田文庫本の整理にかかわって、各種能楽関係の催しに参加し、研究者と意見を交わせたのは有意義であった。5月の横浜能楽堂での古態《翁》の復元は《翁》がすべての能楽に先立つだけに大事な視点を提供してもらえた。早速これは「みたりの《翁》」(志芸の会公演第9回パンフレット)に紹介した。2月に長浜文化芸術会館で「近代猿楽12世山階弥右衛門襲名披露」があったが、丁度、表章氏が『喜多流の成立と展開』に続いて『観世流史参究』を著されたところだったので両流の全貌を具体的な形でつかむことができた。これらは、そのまま新生田文庫本の解題目録作成に役立つ。実は既に図書館の要請で目録に関してはインターネットでの公開の段階に入っている。ただ、私が目指しているのは解題目録であって、一点一点の資料を点検しているところであり、インターネット公開は、その中間発表である。 次に大蔵家文書にかかわっては、架蔵の大蔵弥右衛門掛幅の絵師が臼杵の現地調査を行うことによって紫岡宋琳であったことが判明したことは大きかった。また、山口での鷺流狂言の催しには二回参加した。12月に関西大学で催した「能楽フォーラム」(関西の能楽学会例会)で茂山忠三郎氏がその山口で技術指導されていたこともあるとの重要な事実を話されていた。いずれにしても鷺流を考えることは和泉流もだが大蔵流の特色を浮かび上がらせる上で重要だと思っている。関連しては関大図書館所蔵の鷺畔翁本《寝代り》を復元し、これは『国文学』(関西大学)で紹介することができた。また「大蔵流第25世宗家継承披露大蔵会」に参加でき、弥太郎氏と話し合えたのも中断していた大蔵家文書調査の伏線として、うれしいきっかけであった。
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