本研究課題においては、井原西鶴の関係した出版物を取り上げて、その使用語彙を調査・分析し、当時の大坂、さらには日本の「世の人心」である人間文化の種々相について、その全体像を浮かびあがらせることを目的にしている。当時の大坂の人々が自己の人間文化としたものは多岐にわたるであろうが、西鶴の作品全体から抽出される人間文化を、大きく次の5つの構成要素に分類している。 何を/なぜ大切にするか・どのような生き方をするか・何を/どのように創り出すか何を/どのように求めるか・何を/どのように受けつぐか 本年度は、「大阪の人々の拠り所-天下の台所-」と題して、大阪の町人が、何を大切にし、またどのような生き方をしているかというあり方を具体的に解明した。人はならはせ・生国・誠・長者丸・世の鑑などがキーワードとして抽出された。また「西鶴作品にみられる中国説話-その日本化の様相-」と題して、大阪の人々は、何をどのように受けついでいるのか、またその上で、何をどのように創り出そうとしていたかについて、西鶴の中国説話の摂取のあり方を具体的に分析することによって、そのあり方を解明した。中国説話の摂取はまず和刻本とされることがあり、また翻訳・翻案も行われて摂取されていったが、それが日本文化として融合されて、新しい文化を形成することになったのである。キーワードとしては、仕出しという創造的語彙を抽出しうる。
|