慶政の動向に直結する研究として、宮内庁書陵部蔵『九条家旧蔵諸寺縁起集』の読解を進めた。本資料に関しては、全体的な本文の読解が為されていない現状からも、本文確定・訓読作業が必要とされる課題である。また、本資料は通常の寺社縁起とは異なり、文書等の情報も豊富であるため、諸領域の知見を交差させて考察すべき面を有しており、内容に関する索引の整備も急がれるところである。 寺社の典籍調査および分析の面においては、鎌倉期初頭の唱導を考える上で重要な資料について、戒律文化研究会大会の場で口頭発表を行った。貞慶とその周辺に係わる唱導文献と見なされる本資料の内容は、南都における唱導と京都との関わり、鎌倉幕府やその御家人との関係が見出されるなど、重要な情報が内包されている。『九条家旧蔵諸寺縁起集』中の記述などから、貞慶周辺と慶政との間には、資料を介したつながりも見出されているので、さらに九条家との関わりについても注意しながら、位置づけていく必要があると考えている。その成果については、最終年度まで分析を深めて報告する予定である。 本研究課題が、寺社の勧進や修造の現場を捉えるという、美術史学や歴史学等隣接領域との共同作業が必要な側面を有する点を考慮して、研究分担者藤岡穣氏との連携を図り、研究集会「南都復興における縁起と美術」を開催した。研究者や一般にも呼びかけ、3名の研究者からの報告をもとに議論を行った。30名を超える諸領域の研究者が集い、本研究遂行に当たって有益な美術史学からの情報を得ることができた。本研究集会の内容と意義についても成果報告としてまとめるべく準備を進めている。
|