寺社勧進・修造めぐる唱導文芸の在り方を探る目的から、以下の点に着目しつつ研究を進めた。 第一に、聖地の継承と再構築に関する言説と行為として託宣と巡礼を捉え直すことで、聖徳太子信仰の空間をめぐる問題を照射した。ひとつには、四天王寺における縁起、夢告、巡礼が、いかなる方法で聖地を継承させていくのかについて、具体的な検証を行った。次に、法隆寺修造をめぐる慶政のうごきを九条家との関係から捉え、そこでは、魔界の者からの霊託までもが、聖地の再構築に役割を果たしている点を明らかにした。さらに、橘寺における託宣と勧進の問題を取り上げ、託宣のことばが、聖地の継承と再構築め勧進の推進力として戦略的に機能する点に着目して、その託宣の背後に慶政の姿が窺えることを指摘した。この問題は、聖徳太子信仰の場において、慶政を通じて九条家が果たした役割が多大であることを明らかにした点に重要性がある。 第二に、院政期末から鎌倉初期を信仰上の画期と捉え、九条家との関わりを、四天王寺別当慈円による太子信仰の空間再興のうごきを確認しながら検証した。そこでは、九条家一門が結集して、絵画と和歌とが一体となった荘厳の空間ぶ構築されていることを指摘した。こうした四天王寺の空間としての意義が、藤原家隆の和歌往生とも密接に関わることを示した点などに本研究の重要性がある。 第三に、九条家との関わりを考える上で重要な、解脱房貞慶の動向について検証するため、研究集会「貞慶の宗教事業の多面性-修験・唱導・真言-」を開催して、連携研究者川崎剛志氏を含む三名のパネリストから報告いただき議論を深めた。 これらの研究成果を、前年度までの研究成果を統合して、研究成果報告書にまとめた。
|