『ファウスト』には、「献詩」「劇場での前狂言」「天上の序曲」という3つのプロローグが付けられている。1806年に『ファウスト第一部』が発表されるに先立って、1800年前後に書かれたと推測されるこの3つのプロローグが加わることによって、『ファウスト』の構想は面目を一新することになった。 3つのプロローグは明らかに『第二部』をも見据え、『ファウスト』全体の大きな構想の下に書かれている。そしてそのことは、ゲーテが「ひじょうにまじめな諧謔」と呼んだ『ファウスト』の独特な性格とも密接に関わっていると思われる。プロローグによる新たな構想以後、<道化>としてのメフィストの性格がつよく打ち出されたことによってもそのことは裏付けられる。 本年度は、3つのプロローグをもつ新たな『ファウスト』構想と『ファウスト』の諧謔的性格、特にメフィストの<道化性>との関連について研究を進め、暫定的につぎのような結論を得た。 1、3つのプロローグとメフィストの<道化性>とが一体のものとして構想されていること 2、「天上の序曲」によってバロック劇の「世界劇場」としての性格を持たされていること 3、さらに「前狂言」「献詩」というメタフィクション的プロローグが置かれることによって、「天上の序曲」そのものが一つの「お芝居」と化していること 4、『ファウスト』は、厳密な意味で、一見そう見えるバロック的な「世界劇場」ではないこと 5、以上のような重層的な構造によって、はじめて、『ファウスト』に真にアクチュアルな問題を取り扱うことが可能になり、その「近代性」が保証されていること 6、予測としては、ファウストの「救済」そのものがメフィストの<道化性>によって準備されていると思われる
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