本研究は、イギリス・ルネサンス時代の演劇において「場」(locale)は舞台上でいかなる形の表現を与えられ、最終的に各シーンないしは劇全体の中でいかなる意味を持ったのか、という問題を、特にガーデン・シーン(garden scenes)に焦点を絞って考察するものである。 現存する劇テクストを分析することにより、ガーデン・シーンの収集を行った結果、これらのシーンで起こる出来事は次の5種類に分類できることが明らかとなった。恋愛、密談、瞑想、立ち聞き、浸入。シェイクスピアや同時代の劇作家たちが中世以来の伝統的なガーデン・イメージを持っていたことがわかる。 ステイジングの観点から綿密に各シーンを分析した結果、以下の結論を得た。 1.せりふで言及されるだけで、庭園という場の設定は確立した。 2.庭園という場の設定は、時としてロマンティック、時として不吉な雰囲気をより高める効果あった。 3.せりふによらない、非言語的な場に関する伝達方法もいくつかあった。例えば、登場する俳優の衣装や、歩き方などである。 4.舞台構造は、ガーデン・シーンの上演に極めて適していた。舞台のドア(stage door)、バルコニー(stage balcony)、中央開口部(curtained space)、柱(stage pillars)は、庭園の木戸、庭園を見下ろす窓、東屋、木として使うことができた。 従来、ガーデン・シーンでは舞台上に木(property trees)が運び込まれたという説がある。そうしたリアリスティックな説に対する具体的な反証を挙げ、イギリス・ルネサンス時代の舞台の使い方を示すことができたのは、演劇研究の分野におけるひとつの貢献である。
|