マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』(1885)をめぐる今日の人種主義論争を、アメリカ合衆国の20世紀の「文化戦争」の中に位置づけ、多文化社会を迎えた現代アメリカ社会における本作品の受容の変化とその意味を考察した。 多くの人びとに親しまれてきた「アメリカ文学の古典」であるにもかかわらず、いやそれだからこそ、主人公の「自由の探求」と分かちがたく結びつく奴隷制度や「人種の壁」が扱われる本書は、作中の黒人に対する呼称(「ニガー」"nigger" の使用)や黒人描写が、今日の人種主義論争の対象となり、その社会的な存在としての受容の姿をあらわにしたのである。
|