21年度の主要な業績としてはまず、前年度の作法書と料理本との流れの上で調査を進めてきた、食事をめぐるディシプリンの研究があげられる。いわゆる「食事の作法」は医療との関係での調査・考察がとりわけ有用で、すでに指摘されたきたように近代を、個人に"セルフコントロール"が義務として課された時代であると考えるなら、「健康維持」という側面から食事の作法に大きな関心が払われた歴史的過程についてあらためて振り返ってみると同時に、その個別事例についても詳細な検討をする必要がある。 18世紀から19世紀にかけ食事と医療との関係の間でとくに脚光を浴びたのは「胃」である。人々が胃弱や胃の不調を話題にし、また医療の側も積極的にこの問題をとりあげ、また対処法を推奨、さらには胃をめぐるさまざまな生活指導も行うようになったという事態は、近代人のメンタリティそのものを反映するような実に興味深い傾向だと見ることができる。 このような医療による個人の「胃の事態」へのかかわりの中には、当然ながら「問答形式」が機能する様を見て取ることが可能である。本研究ではそれを具体的な文学作品の中にさぐることをひとつの目標とし、21年度においてはバーナード・マラマッドの作品の分析を行った。その成果は「アメリカ研究」英文号の「食の特集」の号で発表される予定である(印刷中)。 また同じくマラマッドの作品の分析として、3月に刊行された『英語文章読本』で「箇条書き」についての分析を行っていることも付け加えておく。
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