平成20年度から、オーストリア文学研究会の学会誌編集長を務めることになり、その編集作業に多くの時間を取られたが、以下の活動を行なった。 1. 崩壊期のハプスブルク帝国における精神状況と人間関係のあり方を、〈リングシュトラーセの時代〉〈分離派の時代〉〈ポスト分離派の時代〉の三つに区分することを昨年度構想したが、その三つの時代の特徴をシュニッツラーの『アナトール』、『輪舞』、『夢小説』に則して具体的に検討し、その成果を世界文学会の会誌に発表した。 2. ウィーンで文献調査及び実地調査を行った。オットー・ヴァーグナー、アドルフ・ロースの建築物や、現在ブルガリア文化会館として使われている、ヴィトゲンシュタイン設計の建築物の内部を詳しく調査することができた。また、ムージルの戯曲を実際に舞台にのせるときに使われた古い台本等を入手した。 3. これまで中央大学教授早坂七緒氏らと共に翻訳に取り組んできたカール・コリーノ氏の大著『ムージル伝記』 (三分冊で出版予定)の第一分冊の出版にこぎつけた。 4. アドルフ・ロースの建築思想をオットー・ヴァーグナーの建築思想と比較し、ロースに関する本邦未訳の三冊の研究書からの抜粋を翻訳し、ロースについての考察を深めた。 5. ドイツ語圏以外の文学作品(ポオ、ドストエフスキー、イプセン、古井由吉等)における〈部屋〉の表象について調査し、それをムージルの〈部屋〉と連関づける試みを行なった。
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