研究概要 |
今年度はまず前半に,18年度に収集・分析してきた資料の分析をさらに進めた。まず,ロシア・アヴァンギャルドの美学と政治学についての研究書や一次資料を入手・検証し,美学および美術史に関する知見を深める基礎的研究を並行しつつ,アメリカ黒人美学や国民化に対する意識との接点を考察した。これに関しては,当初マイクロフィルムでしか手に入らない予定であった史料が米国議会図書館よりインターネット文書の形で公開されたため,それらも活用しながら,米国モダニズム芸術における黒人作家の役割と,米ソ文化交流における黒人知識人の中心性に関する概念構築を行った。 年度後半には,前半の書誌研究を継続するとともに,昨年度に展望の開かれた,本研究の比較学的方向性を模索するための研究会や討議を行うべく,沖縄(11月),米国シカゴ市(12-1月)に出張した。沖縄では,「沖縄文学」と「黒人文学」に関する理論的討議を行った。シカゴでは,モダニズムの尖端的研究と人種という視軸について米国人研究者と意見を交換し,本研究に対する外部評価を得た。さらに3月には,米国ワシントンDCへ出張し,黒人美術に関する学会に参加するとともに,国立公文書館にて,黒人知識人の渡欧(特にソ連)を当時のアメリカ政府がいかに認識していたかを調査し,特に1930年代,多くの外交文書が残されていることを確認し,それを閲覧・収集した。それらの外交文書は,Carl Van VechtenとV.F.Calvertonなど,黒人芸術に対する理解も深く,ロシア文化観を積極的に活字にしていた批評家の残した言説と,対照的な内容を持つ。このことは,反共政策と芸術活動の監視の,30年代における跋扈を裏づけるものである。今年度はこうした実績を踏まえ,国籍離脱した文学者・知識人の人種観念に関する論考,ならびにアメリカの反共政策の文化的影響力に関する論考を,執筆・発表した。
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