平成18年度には当初の予定通り『注釈付きギルバート&サリヴァン全集』の分析を中心に研究を進めた。この作業のために、以前の科学研究費補助金で既に購入していたヴィクトリア朝演劇関係の資料を今一度読み返し、これまで参照してこなかった文献も利用することができた。全14作のうち、前期の6作について精読を行うとともに、3年目以降に予定している全作の翻訳に備えて注釈をつけるべく様々な基本文献の調査を並行して行った。これには予想外に時間がかかったが、それはとりもなおさず、これらの作品が上演当時の時代に密着しており、それだけ今日の観客には意味が通じにくくなっていることを意味することが明らかになった。 本年度は『イラストレイレッド・ロンドンニュース』の再版本を購入する予定であったが、オックスフォード大学出版より大改訂が終わった『ディクショナリー・オブ・ナショナル・バイオグラフィー』が刊行されたため、そちらの購入を優先させることとした。これは極めて有益かつ重要な文献であり、本研究だけでなく、今後西洋文化を研究するためには常に座右にあるべき基本文献である。この本を1年目に入手できたことは幸いであった。平成19年度の補助金によって残りのシリーズを買い揃えることによって、更にこの研究が深まることは疑いないところである。 研究の具体的成果としては、学内紀要に演劇性の一要素としての公開朗読に関する論文を掲載した。また、ヴィクトリア朝演劇研究全般の延長として、平成19年9月30日に中央大学で開催されるギャスケル協会年次大会で「ギャスケルと演劇」という題目でシンポジウムを開催(金山がコーディネーター兼発表者)することになった。また、11月17日に日本大学で開催される日本ヴィクトリア朝文化研究学会で、サヴォイ・オペラに関する研究発表を行う予定である。これらの発表を通じて本研究に対するフィードバックを得て、更に内容の充実した研究を進めていきたい。
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