本研究の目的は、19世紀アイルランド人の2つの典型的な行動パターン-<独立運動>と<国外脱出>(いわゆる「アイリッシュ・ディアスポラ」)-に着目して、両者の密接な相互関係がアイルランドの文学・文化に与えた影響を明らかにすることである。 3年間の研究期間の初年度である本年度は、まず、主に、「大飢鐘」(1840年代)以前の作家の作品テクストから、アイルランド文学に現れた「ディアスポラ」や独立運動の表象を探り出し、分析する作業を行った。作品も狭義の「文学」に留まらず、新聞・調刺画や、移民たちの日記・手紙なども含め、できるかぎり参照するよう留意した。 また、アイルランドの文化・歴史に関する文献資料を合わせて読み進めることにより、反植民地主義や国民国家形成の動きの中で、アイルランドの「ディアスポラ」や独立運動を立体的に把握するよう努めた。アメリカ独立戦争やフランス革命、ユナイテッド・アイリッシュメンの蜂起と鎮圧、併合法の施行、ロバート・エメットの蜂起、ダニエル・オコンネルのカトリック解放運動などにも、特に注意した。 19世紀アイルランドの「ディアスポラ」と独立運動の様相を、具体的なテクスト分析を通じて明示することを目指す本研究の、現時点での研究成果の一部は、トマス・ムアの詩とエメットの蜂起とを考察した論文にも反映されている。
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