本研究の目的は、19世紀アイルランド人の2つの典型的な行動パターン--<独立運動>と<国外脱出>(いわゆる「アイリッシュ・ディアスポラ」)--に着目して、両者の密接な相互関係がアイルランドの文学・文化に与えた影響を明らかにすることである。 3年間の研究期間の最終年である本年度は、主に、「大飢饉」(1840年代)以後の作家の作品テクストから、アイルランド文学に現れた「ディアスポラ」や独立運動の表象を探り出して、分析を行った。同一作家の中でのその像(表象)の変化、作家間での共通点・相違点を、整理し比較・検討していった。当時の新聞・諷刺画や、移民たちの日記・手紙などの移民史関係図書も参照するよう留意した。 また、アイルランドの政治・社会史に関する研究書・資料を合わせて読むことにより、反植民地主義や国民国家形成の動きの中で、アイルランドの「ディアスポラ」や独立運動を、多面的に、事実に即して把握するよう努めた。19世紀終わりのパーネルらの独立運動やアイルランド文芸復興運動などにも特に注意した。 19世紀アイルランドの「ディアスポラ」と独立運動の様相を、具体的なテクスト分析を通じて明示することを目指す本研究の、研究成果の一部は(別項に示すとおり)、1)絵入り週刊誌Punchにおけるジョン・テニエルの諷刺画に、19世紀英国におけるアイルランド(人)の表象を見た論文、および2)アイルランド西岸の歴史ある港町ゴールウェイ(Galway)をとり上げ、その特色や、移民と「ゴールウェイ(湾)」との関わりを概観した発表、に反映されている。
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