研究概要 |
今年度の計画に従い、18世紀の思想・文学・文化・ジェンダーに関する研究の中でも、特に感受性(sensibility)の研究書や論文を意識して集めて読み、論文の準備を進めている。また、ソシアビリティや感受性、情報や思索の内容の共有、人間の互いの理解に非常な関心を示し、それを書物に著すことに取り組み続けた18世紀半ばの作家セアラ・フィールディングを題材にした図書の出版準備を進めることが大きな作業だった。 18世紀の女性が残した書物や資料から本年は少し目を転じて、他の分野から考えてみるということを行うことができた。翻訳書としてあげた『茶の帝国』は、茶樹をめぐる歴史を主軸にする書物であるが、筆者のマクファーレンがアッサムのプランテーションで幼少時期を過ごしているという事情から、個人の体験と想いが明晰な学術的分析に織りこまれ、歴史を解明する物語を形成するという形をとっており、ナラティヴと作者と読者の関係を考える良い材料になった。他に、医学関係の人名事典で、日本の医療制度が新たな時代を迎えたころに活躍した二人の女性、吉岡弥生、荻野吟子の項目を執筆するため、伝記や伝記的小説を読む機会を得て、主な研究分野と時代も国も異なる分野の資料や作品にあたり、学ぶことが多かったので、今後の本研究に活かしていくことができると思っている('OGINO,Ginko' and 'YOSHIOKA,Yayoi' in Dictionary of Medical Biography, ed. William F.Bynum and Helen Bynum(Westport, CT : Greenwood,2006)。来年度は、18世紀により焦点を絞っていくつもりである。
|