研究概要 |
19年度の計画に従い,18世紀半ばの文学・文化を主題にした書物を出版することを優先して研究を行い,それを達成した。ここでは,印刷物の普及や知識・情報の伝達の迅速化と広範化の進展がみられるなかで行われていた小説をはじめとする散文での斬新な試みに注目して,出版物の受け手となる人々の動向をつかまえようとする敏感なアンテナを張り巡らす作家の意思と,一方では大衆に迎合しまいという決意の交錯をセアラ・フィールディング(1710-1768)を中心に考察した。同時に,感受性の文学,書簡体文学,学校物語,古典の翻訳について18世紀半ばの傾向を分析した。日本オースティン協会での発表では,18世紀の小説によくみられる,個人が語る自分の過去の物語に執着するナラティヴの傾向を受けて,その傾向の重視を受け継ぎながら,揶揄と主観的な語りへの警戒を加えて,個人の体験を語ること,そしてそれを受け入れることについて注目しながら,語りの技術を発展させ,コメントを加えていったという点に注目して,ジェイン・オースティン(1775-1817)を分析した。これを整理して論文として掲載する準備を進めている。また,静岡大学哲学会における発表では,オースティンの個人が語る物語への執着と懐疑について述べたが,その際には,オースティンが提供する癒しと幸福感に重点を移して,これも論文にする準備を進めている。また,時代も国も分野も違うが,19世紀の日本のコレラをめぐる文献や新聞記事資料をもとにして,共同執筆の論文を発表した[Akihito Suzuki & Mika Suzuki,Individual Lifestyle and State Policy:Prevention of Cholera in Modern Japan',in Hormoz Ebrahimnejad ed.,Medical Modernization in the International Perspective(London:Routledge),2008]。
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