今回の研究の主要目的のひとつは、ロシア人日本文学研究者セルゲイ・エリセーエフが1912年(明治45年/大正元年)から東京帝国大学大学院に在籍し、一旦ロシアに帰国したあとも、再度1916年、1917年の夏に来日し、松尾芭蕉の生地からゆかりの土地をめぐって仕上げをした博士論文「芭蕉研究」の探索であったが、現時点において発見するには至っていない。 2006年8月および2007年8月の二度にわたり、ロシア国立図書館古書部、東洋文学センター、ロシア亡命者図書館などをモスクワ大学助教授クドリャショーワ氏、元レニングラード大学助教授で現在同志社大学教授のメーリニコワ氏、亡命者図書館館長のコロリコーワ氏の協力を得ながら探索し、エリセーエフに関する文献を種々蒐集することはできたが、当該の博士論文を見つけることはできなかった。 次の目的であったロシアにおける日本文学翻訳の年譜作成は、二回の訪ロのさいに購入することのできた多くのロシア語書籍(おもに日本現代文学作品の翻訳)と早稲田大学図書館で参照、研究することのできた文献をもとに19世紀末から現在にいたるロシアで出版された日本文学翻訳図書のリストを作成することができた。これはすでに電子データ化がすんでいるが、現在これを「ロシアの日本文学」というホームページを立ち上げて多くの研究者が参照、利用することのできる作業をおこなっている。 エリセーエフ著「日本文学」の翻訳と刊行に関しては、2年間にわたり「翻訳の文化/文化の翻訳」の第2号と第3号に「S・エリセーエフ「日本文学」-翻訳と解説-」(その1)(その2)と題して掲載した。
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