ラスキンがフランスの美学に与えた影響に関して、昨年度に引き続き、中世イタリア美術受容を中心に調査した。フランスの図書館での文献調査に加えて、イタリアのトスカーナ地方のプリミティヴ派絵画についての現地調査も行い成果をあげることができた。殊に中世とルネッサンスの境界線にあるマンテーニャとボッティチエリのついてラスキンの言説を細かく分析し、当時のフランスの美術批評との比較を行った。その過程でプルーストに焦点をあて、この問題についての作家の見解の興味深い変遷を草稿の中に辿り、論文として発表した。2人の画家の言及は、草稿では、両性具有のテーマに深く結びついて最終稿に近づくにつれ、関連する描写は削除されていく。ラスキンや他の同時代の批評家の影響を越えて、作家が独自の美学的世界の構築を試みたことを実証した。 尚、中世美術再発見の動きは、本課題の柱となった以下の3点にも関与する。1)公的美術館の整備とそれに伴う中世美術の再評価、2)ラスキンが擁護した前ラファエロ派の画家たちによるイタリア中世美術の再発見と象徴派の誕生、3)「美」の概念の発展と美術批評の変遷。イタリア中世絵画をキーワードにしつつ、4年間の研究の成果の集大成を試みた。 またもう一点、ターナーを擁護したラスキンが19世紀末フランス美術に与えた影響の一例として知られる、印象派絵画と文学テクストの関連についても改めて考察をした。。現在、エディッション・クリティックを準備している草稿ノート(カイエ34)を中心に、印象の移り変わり、色彩の微妙な変遷の描写を巡るプルーストの試行錯誤をたどり、研究発表を行うとともに論文にまとめた。
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