本研究は、モダニズム文学の中心人物として知られるアメリカの詩人Ezra Poundが能から受けた影響と彼のイメージ論及び「抽象」観との関係を明らかにすることで、パウンドの能体験の再評価を試みるものである。平成18年度の調査において、能はイメージであり、また、そのイメージは単なる映像ではなく、舞、台詞、謡などによって複合的に形成される抽象的な複合体であるとする1910年代のパウンドの能理解が、彼の「表意文字的手法」に及ぼした影響を確認したが、平成19年度には、この考察を補完するために、評論Gaudier-Brzeska: A Memoir中心とする諸テクストの分析をさらに進め、また、後年パウンドが能を模して書いたWomen of Trachisを分析して、1910年代の彼の能理解の「その後」について考察した。研究の結果、Women of Trachisには作品を抽象的な複合体として提示する主張が乏しいことが明らかになった。その理由を解明するためには、「表意文字的手法」の後退が指摘される後期の『詩篇』におけるスタイル上の変化を分析する必要がある。 本研究の成果をもとに、7月には国際エズラ・パウンド学会(イタリア、ヴェニス市)にて研究発表を行い、モダニズム詩と「抽象」の問題について参加者と意見交換した。10月には金城学院大学にてパウンドに関する講演を行い、また、日本アメリカ文学会中部支部9月例会(中京大学)にて研究発表を行った。なお、研究成果は別途学術論文としても発表の予定である。
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