本研究の第一の目的は、グリム・メルヒェンにおける「森」が、グリム兄弟の「根源的なもの」の総体として、理念的かつ普遍的に捉えられることを、兄弟の学術著書全体を精査する総合研究「グリム文献学」の見地より実証することにある。グリム兄弟の「森」あるいは自然への思念は、自然を支配する当時のキリスト教文化圏にありながら、環境としての「自然」のみならず、己自身あるいは民の根源としての「自然」の価値を説くものであり、それは、「自然(森)との共生」のあり方を理念的側面から支える意味で、現代社会にも通ずるものがある。第二の目的は、「自然との共生」教育に、畏敬の対象あるいは異界としての森という精神文化史的観点を導入し、伝承文学(グリム研究を含む)を用いた「森のエコロジー」教育の提案と実践を試みることにある。平成18年度は、ドイツのハルツ山地を訪ね、現代における「魔女伝説」との関わり方を見聞した(18年8月)。ドイツ再統一以降、ハルツの森(山)は、魔女伝説ゆえの観光地化が進んでいる。しかしながら、それは同時に、魔女伝説を育んだ森を守るという意識にも繋がっていることは、伝承が自然との共生に精神的に貢献している意義深い側面といえる。次年度は本研究の一部を、「<魔女一森一自然>との共生」という形で発展させるつもりである。 ・口頭発表「魔法の眠りと時間の喪失-グリム・メルヒェン<茨姫>についての一考察-」(18年10月、於九州産業大学、日本独文学会シンポジウム「グリム・メルヒェン研究」)、「グリム・メルヒェンと森」(19年、2月、比較民話研究会、於奈良教育大学)など。 ・公開講座「グリムの森・ドイツの森(2)-『ドイツ伝説集』を中心に-」(18年11月、於名古屋市生涯学習推進センター)。 ・講義「<魔女>像の比較文化研究」、「グリム伝説の<森>研究」(18年度、於愛知教育大学)など。 【本研究は、人文社会科学振興プロジェクト「豊かな人間像の獲得」の、「伝承の現場からの考察」グループ研究とも密接に関わっている】
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