本研究は、19世紀フランス小説において、従来あまり注目されていなかった「子供像」が、文学表象としてどのように扱われているかを検討し、そこから得られる結果を元に、女性とセクシュアリティ(恋愛・結婚・生殖等の事象を含む)の関係を明らかにすることを目的としている。この手法およびそこから得られる結果を有効なものとするためには、まず、19世紀フランス文学が描きえた「子供像」についての、できるだけ多くのサンプルが必要となる。また、女性とセクシュアリティに関しては、19世紀フランスにおいて、女性がどのように位置づけられていたかを、さまざまな角度から検討しなければならない。と同時に、そうしたあり方を、現代の文学理論を応用しながら再検討し、新たな分析視点を提示することが必要である。この目的を達成するため、補助金による研究の2年目にあたる今年度は、以下の課題に取り組み成果を得た。 1.「子供像」サンプルの収集と分類:19世紀フランス小説に描かれた「子供たち」を、大きく「無名の子供たち」と「活躍する子供たち」に分類し、それぞれの属性を考察した。その際、「子供たち」の母親である人物との関係性に重点を置いた。このような、広範囲の作品を扱い、特に「子供像」に的を絞った研究はこれまでに例を見ないため、今後の研究に資するところが大きいと考える。 2.女性の性的あり方が社会化されている以上、その過程と、社会化された結果生じる「母親意識」を考察せずにおくことはできないと考え、作品に表象される母とその意識について、特に、現代の文学理論やジェンダー理論の成果をふまえて検討を重ねた。 3.補助金を得て、クレルモン=フェラン(フランス)で開催されたジョルジュ・サンドに関する国際学会に出席し、多くの知見を得た。中でも、サンドに固有の性関係モデルに言及した発表や、社会の周縁に追いやられる人物像として「未婚の母」を扱った発表は、本研究に多大な貢献をしたと考えられる。
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