研究概要 |
シェイクスピア劇ほかのエリザベス朝演劇の諸版本と、近代初期印刷・出版関係研究書、関連文献とを収集し、以下のような調査を行った。 英国ルネサンス期においては、出版予定の書籍は、出版に先立ち書籍商組合登記簿に登記することになっていたが、エリザベス朝の戯曲本には、無登記で出版されたものがかなりの数に上る。登記出版と無登記出版の差異の意味を探るために、無登記出版と登記出版の作品リストを作成し、データの収集を行い、約50パーセントの作業を終えた。時期によって状況は多少異なるものの、約3分の1の古版本が無登記出版であることをほぼ確認することができた。あわせて、非戯曲本の登記状況との比較検証作業を進めた。この作業は現在も継続中であるが、2007年度までには終了し、英国ルネサンス期の「出版認可」、「出版登記」、「版権」に関する論考を著す予定である。 上記の作業と平行して、シェイクスピア作品の出版状況を実証的に詳述するために、シェイクスピア劇及び同時代劇作品の四つ折本の出版登記と出版状況を精査した。特に、ジェイムズ朝以降の戯曲出版の状況を記述するための準備作業として、登記簿の記載内容の調査を行い、宮廷祝典局長の戯曲出版認可への関与の度合いを通時的に跡付けた。この作業を行う中で、英国ルネサンス演劇の統制に関する文献の再調査を行った。英国ルネサンス演劇の統制は、筆者の従前からの研究テーマであるが、戯曲の出版統制に関する考察を含んでいる。 論考「エリザベス朝の劇団と地方巡業」を出版し(『言葉の絆』所載)、Jeffrey Knapp, Shakespeare's Tribeの書評を学会誌に寄稿し(Shakespeare Studies, vol.44, 2007所載予定)、『新編・シェイクスピア案内』(研究社、2007年刊行予定)の文献案内を執筆(住本規子と共著)したが、『案内』の解題において、従来の同種の図書では手薄であった、版本や本文批評に関する解説を詳細に記述した。
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