課題研究の初年度に当たる本年度の研究成果は、主として以下の3点である。 1.携帯用パソコンを購入し、情報処理能力を高めると同時に、グリム童話・日本古典落語に関するCD-ROMによる資料を収集した。 2.「アジア・ゲルマニスト会議ソウル2006」に参加し、「現代文化におけるファンタジー文学について」と題して、ドイツ語で研究発表した。同時に、韓国の口承文芸に関する情報交換と資料収集を行なった。 3.ファンタジー文学に関する2本の論文発表と1本の全国学会での口頭発表を行なった。さらに、「グリム童話」3話の翻訳と「グリム童話を用いた教授法」に関して1本の論文を発表した。 研究成果:グリム童話と日本の類話を比較・分析した結果、次のような注目すべき「文化的変位」が判明した。グリム童話の類話に関し、日本においてこれまで次の2組が見い出された。 (1)日本古典落語『死神』は、『死神の名づけ親』(KHM44)の類話である。しかし、両者を比較・分析すると、次の5つ差異が見い出される。:(宗教的要素)(人物関係)(解決手段)(登場人物の職業)(謝礼・報酬)。 (2)日本昔話『歌い骸骨』は、『歌う骨』(KHM28)の類話である。しかし、両者を比較・分析すると、次のそれぞれ4つの差異が見い出される。:(人物関係)(解決方法)(解決手段)(処罰の方法)。 次年度は、この難問を解決するとともに、「1つの童話が異国に伝播されるとき、その童話の文化的環境は、1.宗教的要素、2.人物関係、3.解決手段、4.解決方法、5.登場人物の職業、6.謝礼・報酬、7.処罰の方法の点において、異国の伝統文化・習慣へと置き換えられる」という仮説の真偽をペローの童話とグリム童話とを比較・分析する(例えば、『眠りの森の王女』と『いばら姫』(KHM50)、『赤ずきん』と『赤ずきん』(KHM26)、『サンドリヨン』と『灰かぶり』(KHM21)である。)
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