アメリカ現代詩人ゲーリー・スナイダー(Gary Snyder 1930-)は、1956年に初来日し、1968年に帰国するまで京都を中心に日本で生活した。2006年はスナイダーが初来日してから50年の節目にあたる年である。日本で生活したのは実質的には10年間であったが、京都における仏教や文学を中心とする日本文化及びアジア文化の研究と詩の執筆は、帰国後のスナイダーの詩人としての成長の基礎となった。また、スナイダーは、アメリカ思想史においては、現代環境思想のパイオニアとして高く評価される思想家であるが、その環境思想の生成に際して、京都時代の果たした役割は大きなものがある。京都での思索や諸体験がその詩や思想の基盤にあると言えよう。それゆえ、この12年間のその生活と思想は、このアメリカ現代詩を代表する詩人の軌跡を分析する上では極めて重要な時代であり、その全体像を把握するためにはその「日本時代」(Japan Years)は無視することはできない。 本研究は、1956年から1968年にいたる12年間のスナイダーの詩と思想の発展を分析し、この詩人の日本時代の全体像を評伝(Critical Biography)として構築し、その全体像を理解するための新たな視点を提示する。日本時代にスナイダーが何をし、誰と会い、どのようなことを考え、どのような生活をし、その詩と思想はどのように形成されていったか?初来日から50年が過ぎた今日でもこれらのことについて詳細は報告されていない。本研究は、このような未開拓の領域に踏み込み、日本時代のスナイダー像を提示しようとするものである。
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