本研究は、アメリカ南西部の米墨国境地帯に生きるチカーノの文学が、アメリカ先住民文学と連関してその地域の文化的境域性の形成にどのように寄与しているか、また、そのような境域文化(border culture)のありようが、アメリカ文学全体にどのような展望を与えるかについて究明することを目的としている。本年度はアメリカのUCバークレー校およびロサンジェルス校、南カリフォルニア大学、ニューメキシコ大学の図書館を中心に資料収集を行ったほか、主要な作家や詩人であるカレン・テイ・ヤマシタ氏やアルフレッド・アルテアーガ氏、そしてチカーノ研究者であるUCサンタクルーズ校チカーノ・ラティーノ文化センター教授のオルガ・ナヘラ・ラミレス氏などとも交流し、ボーダー研究の最新動向について意見交換、情報収集をすることができた。また、ニューメキシコ州のプエブロ先住民居留地では、先住民作家のレスリー・マーモン・シルコウに関する調査も行った。これらの調査の結果、チカーノ文化およびアメリカ先住民文化の「境域性」を、地理的特徴のみならず文化的特徴として解釈すると、日系アメリカ人文化などとも共有される点が多く、「境域文化」が、アメリカ文化におけるサブカテゴリーとして成立しうる可能性を秘めていることがわかった。今年度の成果の一部は、平成18年10月に行われた日本アメリカ文学会第45回大会でのシンポジア「アメリカの語り直し〜伝統の解体と流動するロジック」において「人種と国境の語り直し:アメリカ南西部の声を中心に」というタイトルで発表した。また、多民族学会の学会誌の創刊号には、本研究の成果である"Endangered or Empowered Species?: Chicana Spirituality for Political Empowerment in So Far from God'が掲戟される予定である。
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