研究概要 |
「ジョイスとオリエンタリズム」というテーマにおいて、2つの海外での学会発表を行った。"Orientalism"という用語は、エドワード・サイードがすでに指摘しているように英米語でニュアンスが違うのだが、平成19年度は、1)ヨーロッパにおける反ユダヤ主義、2)ヨーロッパにおける極東、特に日本文化の受容及び日本におけるジョイス文学の受容について考察した。 1)6月中旬にハンガリー国ブダペスト市内、Faculty of Informatics of Budapest University(Eotvos Lorand University, ELTE)で開催されたThe XXth International James Joyce Symposium "Joycean Unions"(International James Joyce Foundation主催;学会本部:Ohio State University, USA)で、"‘And I be long to a race that is hated and persecuted' : Anti-Semitism in Ulysses"という題で、研究発表を行った。現在、この発表に基づいた論文を準備中である。 2)11月初旬の2006 International Conference on James Joyce and the Humanities(The James Joyce Society of Korea主催;学会本部:Seoul National University)において、"East Asian Reception of James Joyce"という学会テーマのもとに、"‘United States of Asia'(VI.B.3.073) : A Postcolonial Reception of James Joyce and Japan"という題で研究発表した。この論文は、日本におけるジョイス文学の受容を紹介しつつ、サイードの中東における西洋のオリエンタリズム批判の議論を日本と列強、アジア諸国の複雑な関係に応用して論じたものである。ジョイスの時代、特に日清、日露戦争から2つの世界大戦へと進む軍国主義時代を中心に、アメリカの黒船に脅かされながらの開国、不平等条約を経験した日本がどのようにして「列強」の仲間入りを果たし、かつそれを維持しようとする過程で周辺諸国、ことに朝鮮半島、中国、台湾をどのように巻き込んでいったのか、それがジョイス作品にどのように直接的、間接的に言及されているのかを論じたものである。韓国ソウルで、大勢の韓国人学者たちを前に、しかも中国、台湾から招聘された学者たちも聴講する学会での発表であったのだが、予想をはるかに超えた好意的な反響をいただいた。その成果は、韓国ジョイス協会機関誌James Joyce Journal(2006 International Issue)に掲載され、さらに2007年末頃に英国Blackwell Publishing Ltd.より出版予定のA Companion to James Joyce(Richard Brown, University of Leeds, ed.)に収録されることになっている。
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