研究課題
ジェイムズ・ジョイス作品におけるオリエンタリズムに関し、平成20年度は最終年度なので、2つの国際学会発表を中心に研究活動を行った。6月に、フランスのトゥール市のフランソワ・ラブレー大学で開催された国際ジェイムズ・ジョイス・シンポジウムにおいて、「ジョイスとジャポニスム」というテーマで発表した。ジャポニスムの流行は1867年第2回パリ万博、1873年ウイーン万博の以後のことであった。特にフコンスにおいて、伝統的な手法を離れて新しい画法を模索していた印象派の画家たちに与えた影響が多大なものであることはよく知られている。パリに20年住んだジョイスの友人たちの中には、日本文化に大きな興味を示したエズラ・パウンド、W.B.イェーツもおり、アーサー・パワーなどはアーサー・ウェイリーの英訳版『源氏物語』をジョイスに読ませようとした。日露戦争の1904年6月16日当時の経過は、芸者、風鈴、衝立などのジャポニスム同様、Ulyssesの数カ所で言及される。Finnegans Wakeでも、日本はしばしば中国とともに言及され、日本語を含んだ言葉は実に80語ほど使用される。とくにゴッホの“Self-Portrait(Bonze)"(1888)と“La Mousme"(1888)の2枚の絵画を中心に、ジョイスとゴッホが共通して読んだと思われるP.ロティのMadame Chrysantheme(1887)の影響についてまとめた。論文は学会論文集編集委員会に投稿し、現在査読結果待ちである。9月には、韓国ソウルの成均館大學校で開催された東アジア国際ジョイス学会において、“Orienting Orientalism in Ulysses"を発表した。オリエンタリズムを分かりやすくかつ一般的体系化を目的として検証したものである。Bloomは人種的には多分にアジア的であるが、どれもかすかで不確実なものである。小説中には、Bloomを中心として、オリエント的要素が抜かりなくちりばめられている。その中でも重要なものがF.D. Thompson's In the Track of the Sun(1893)に基づくBloomの独白と国立博物館の仏像、マイコス・バザーの描写であることを検証した。学会終了後、韓国ジョイス協会編集委員会に当該論文を投稿し、無事査読を通過して、James Joyce Journal(2008)に掲載された。
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James Joyce Journal Vol. 14, no. 2
ページ: 51-70
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